【マニア向け・本職向け】家畜保健所という公務員獣医職

皆さまこんにちはこんばんは。ケモミミ本舗です。

昨今、働く環境がどんどん厳しくなってきてます。
普通に働くだけじゃお金が足りないから投資もしたら?とか国に言われるようになったらおしまいですよね…

不況時には公務員、ということで、公務員職を目指す学生さん、獣医さんも多いんじゃないでしょうか?

家畜保健所のお仕事

家畜保健所は地方公務員職になります。

地方公務員職の獣医師の行き先は2つあって、ひとつは厚労省の管轄である「保健所(人の)」や動物管理センター、食肉検査所等、と、農水省の管轄である「家畜保健所」等があります。

なので家畜保健所のボスは農林水産省、ということですね。

ボスが農水、ということは?

がっつり家畜関連だけ、の職場になります。

家畜に関連することはなんでもやるので、病気の対策、防疫、予防検査、病性鑑定、糞尿処理施設の指導、等々、あらゆることをやります。

糞尿処理施設の指導なんて獣医領域外すぎて笑えてきますよ。

肉体労働と事務作業、どっちがメイン?

2,30年前までは肉体労働メインでした。

あの頃も豚熱のワクチンなんかがあったし、定期検査と呼ばれる伝染病の検査も毎年しっかりやってました。病性鑑定も外の検査から戻ってきたら解剖室に死体が転がってたりして、毎日のように解剖もしてました。

今は肉体労働もしっかり残ってますが、病性鑑定関連が減って、そこに頭脳労働ががっつり足された感じになってます。

(病性鑑定関連はどこの県も専門の病性鑑定室が作られていて、そこが多くを担っています)

要するに仕事量がかなり増えてます。

国から人員削減を命令されているので人数はかなり少なくなっていますが、仕事の総量としては2,30年前の倍くらいになっている体感です。
どこも今はそんな感じでしょうけど、世知辛いですよね…

入ってくる新入職員も皆さん昔と比べてはるかに優秀な人たちばかりなので、上司たちがアホに見えてしょうがないんじゃないかな、と思ってしまいます…

事務作業の具体的な内容は?

パソコンが当たり前になってから、書類のクオリティはかなり高いものが要求されるようになっています。写真や表の挿入は当然といった感じでしょうか。

報告書、データのまとめ、在庫管理、…

特にデータのまとめは紙媒体からの手入力になることが多く、ものすごい手間がかかります。

国から要求される書類も煩雑なものが多く、これも時間を取られます。

この辺りは事務作業の向き不向きで作業時間はかなり変わってきますね。考えないと文章が作れない人はかなり苦しい作業になると思います。

事務作業はいわゆる「獣医じゃなくてもできる仕事」なので、この辺りの割り切りができないと公務員獣医師をやっていくのは苦しいでしょうね。

公務員獣医師は臨床に比べて楽なのか?

実務時間(拘束時間)

また昔の話になってしまいますが、10年くらい前までは公務員らしく朝8:30くらいから17:30くらいまでの就業時間で、土日祝日は当然休みでしたが、今は違います。

鳥インフルエンザや豚熱などの発生が当たり前になり、休みの日にも当番が置かれるようになっています。

家畜を殺処分しなければならないような伝染病が出た時は夜中でも呼び出されます。

ひと昔前のような感覚でいるととてもやっていけません。

余談ですが、鳥インフルエンザなどの伝染病を疑う家畜が出た時に最初に検査の要不要を判断するのも家畜保健所の獣医さんなので、責任もかなり重いです。

給料

臨床の獣医さんたちは自分が経営するか雇われるかで給料は相当差が出ますが、公務員獣医師は決められた給料表に従って給料をもらうので、就業年数による違いはほとんどありません。
(これは男女でも言えます)

ただ、世間のスタグフレーションにより、公務員の給料表も軒並み低く改訂されており、高めの給料設定になっている新人さんたちを除けば10年前くらいに比べて年間数十万単位で給料は低くなっていると思います。もしかしたらもっとかも。

上の人からの評価が高ければ高めの給料がもらえるので、他人より目立つ事業で目立つ成果を出せば勝ち組になれます。(ただし、他の人に目立たないドブさらいのような仕事が回ることになるので、よほどの人格者じゃないと人目がツラいかも)

安定はしてるけどたくさんは貰えない、といった感じですね。
大学が私立の人だと、もしかすると学費の元取るだけで何十年もかかるかも、くらいのレベルです。

獣医職がやりがい搾取的な職種なので、この辺りも割り切りが必要なんでしょうね。

獣医的な知的好奇心は満たされるのか?

個人によるところが大きくなる部分だと思います。

小動物臨床だと人の医療分野とタメを張るくらい高い知識レベルを得られるでしょうが、公務員獣医師の日常は医学的な知識欲はあまり満たされないと考えていいでしょう。

ただ、いろいろなところから勉強することはできるので、その姿勢を持つことができる限り(臨床的な知識以外の)深い知識を蓄えることができると思います。相当努力は要りますが。

家畜保健所では臨床の獣医さんたちを薬機法や獣医療法上の指導もしたりするので、公務員を経験してから臨床に移ると法律に強い獣医さんになれるかも。

法律関連や予算関連はむしろ公務員の方が勉強できると思います。

公務員獣医師からの転職はできるのか?

小動物臨床への道

昔は公務員を退職した獣医さんが開業したりもしてましたが、今はもうそんなに甘い感じではやっていけないでしょうね。

もしあなたが公務員で、臨床に移りたいなぁ、と思っているなら、35歳くらいまでに転職した方がいいでしょう。

35歳くらいまでにはひと通り研修も終われるし、公務員的な知識も持てるので、かなり有利に転職することができるはずです。
実際こういう人はたくさんいます。ただ、税金使って研修するので、その辺り感謝して去って欲しいとは思いますが。

大動物臨床への道

牛をやるのか、豚をやるのか、鶏をやるのかでだいぶ変わってきますが、いわゆる「臨床」で食べていこうと思うなら、だいぶ厳しい道だと覚悟しないとダメでしょう。
共済や大動物病院に就職することができればなんとか、という感じでしょうか。

大動物関連で生き残りたいならコンサルティングがいいと思います。

公務員時代に農家さん(顧客)を捕まえておいて退職するときに契約してもらうのが1番楽で確実でしょうね。これもリソースが税金なのでいろいろとウムウムですが。

それ以外

製薬会社に就職、というのもよく聞きますね。逆のパターンも多いです。

他職種から公務員獣医職への転職のメリットは?

上記と逆のパターンですね。

実は公務員獣医職は今非常に新規参入者がいなくて困っています。
なので、途中採用はあたりまえになってきています。
ひと昔と違って採用年齢の制限も相当緩くなっていますので、結構年齢がいってからも公務員獣医職に転職することが簡単にできるようになっていると思います。

メリットは何をおいても公務員最大のメリットである、福利厚生の充実、ですね。

当番などで休日がブレることはありますが、病気などで仕事ができなくなってもしっかり保障される環境があるので安心感が全く違います。

子育て中の女性ややシングル家庭なども安心して働けると思います。

まとめ

家畜保健所に限らず、公務員の獣医さんは社会的に非常に大切な仕事をしています。
しかも「獣医師免許」を持ってないとできない仕事ばかりなので、替えもいません。

ただやはり前線に立って仕事をするので世間一般からの風当たりは強いです。

それで心を病んでしまう人もいたりするのは他の職種と同じですね。

家畜保健所は今まで書いたことからも分かるとおりとても大変な仕事をするところです。
でも技術職なので、国家資格があるにもかかわらず給料も安く、軽く扱われています。
それを乗り越えることができる人だけが家畜保健所で生き残っていけるんだと思います。

淡々と仕事する、というのができれば1番いいんですけどねぇ…

何らか参考になることを願っています。がんば。

家畜保健所に対する私見(完全な蛇足なので読み飛ばしても大丈夫)

今の家畜保健所はあまりにも仕事が大変になっているので、志の高い人やら意識高い系の人やらが幅を利かせていますが、これはあまりよくない状況だと個人的には思っています。

私が家畜保健所にいた頃に目標としていたのは「誰が異動してきてもあたりまえに回る職場を作る」ことでした。

一部意識高い系の人たちはもちろん仕事もできるし農家ウケもいいし、上司ウケもいいので非常に目立ちますし、大きな仕事も任されやすいです。

でも、そんな人がやってるところに普通の人が異動して来ちゃったらどうします?

下手したら潰れますよね?

そんな「人にヒモづけられた仕事」は下道なんですよ。公務員の本質は同じクオリティを毎年提供することにあるんです。「その人がいないとダメ」なんて本当は最悪なんです。

今はもう私も退職してしまいましたが、どうかそんなことで潰される人が出ないことを祈ってます。未来を潰してどうすんだ。

だからもし、こういったことで公務員獣医を続けていく自信がなくなっている人がいたら、開き直っていいんだよ、ってことをお伝えしておきますね。

「その人」しかできない仕事を作った責任は上司にあってあなたにはありません。
そんな仕事のさせ方をしていた上司が無能なだけなんです。
だから、開き直ってあなたにできる範囲で仕事しましょ。120%の仕事なんて続きませんから。

おすすめの記事